残 り 香/弐


土方さん、遅いなぁ。

今夜も仕事で屯所に戻るのが遅くなった山崎は、恒例の残り物と冷や飯で晩ご飯を済ませると、調査報告をするからと言い訳をしながら、当たり前のように副長室で主の帰りを待っている。
いつの間にか、そうやって土方と逢うのが日課になっていた。

はじめの頃は「なに、レギュラーのような顔して人の部屋に居座ってるんだ、コルァ」と、いちいち裏拳でぶん殴られていたのだが、最近は逆に「おう。今日は遅かったな、ザキ」と声をかけられることもあるほどだ。
土方に受け入れられたとか、公認の仲になったというよりは、単に山崎の粘り勝ちというところだろうか。土方の側も、山崎が側に居れば他の虫は寄ってこないという程度には、存在意義を認めているようである。

そろそろ子の刻回りそうだけど……探しに行こうかな。それとも、入れ違いになったらイヤだから待っていようかな。
山崎が迷っていると、スパーンと勢いよくふすまが開かれた。

「あ、ひじか…………」

「おーい、バカ犬。いるけぇ?」

「はっ、はいいいいいいいっ!?」

そこに居たのは、待ちわびていた人物ではなく、透き通るような肌に映える淡い色の髪と瞳。真選組の黒い隊服を着込んだ…………よく見慣れているはずなのに、なぜか見慣れない姿の人物であった。

「ち。本当に居やがった。なに、当たり前のようにたむろしてやがんでぇ、こいつぁ」

出入り口に仁王立ちになった沖田はじろりと山崎をねめつける。

「沖田……隊長?!」

なんとも間抜けな声を発して、沖田の姿を頭の上から順番に見下ろした山崎の視線は、ある一点で停止する。





昨日まではそんなものなかった、確かになかった。
いやそれ以前にこの人間違いなく男だったよな。
顔立ちこそ可愛らしい、といわれる部類に入るけど、実際脱いで見ると無駄な肉のない引き締まった躰だし、ナニだってちゃんと立派なの付いてるし。




頭の中でぐるぐると色々な考えが回り……ふと思い至る。

その山崎の考えが分かったのように、沖田の口元が笑みを形取る。

「土方さんなら、局長んトコで仕事してますぜぃ。暫く戻ってこなさそうだから、ちょっと来なせぇ」

沖田がわざわざ自分を連れに来るとはどういうことなのだろうか。
その手招きが不吉の前兆と分かっていても、一応は上司で拒むわけにも行かず、その後について沖田の部屋へと向かう。

「ま、入った入った」
 
山崎を部屋の中へと押し込んで、入り口の襖を後ろ手に閉じた沖田は、その見事なまでの膨らみを見せ付けるように、ゆっくりと座布団に腰を下ろした。

「まぁ、何事も先達はあらまほしきこと……ってぇヤツさ。まぁ、見ての通り、お察したァ思うがな。」

「……飲んだんですね」

それは質問というより確認だった。
何を、なんて今更聞かなくとも、心当たりなんてそれしかない。

「土方さんを孕ませようにも、あいつぁ、俺が出すもんは警戒して飲みやがらねぇもんでさ。その逆をいったてぇ訳さ」

返ってきたのが、山崎の予想に違わぬ答えだっただけに、ため息が出る。

「一体どういうルートで手に入れたのか、是非お聞かせ願いたいものですね」

「ルート? なぁに、密輸組織をあぶり出して、それを扱ってるらしい船団に忍び込んで、あとはまぁ、ちょっと荒仕事を。苦労したぜぇ。あいつら、もうすっかり俺を警戒しやがってたからな。肝心の薬は証拠物件として押収して、あとは面倒だから別の課に通報……ってぇところだ。今頃、四課あたりテンヤワンヤしてんじゃねーか?」

しれっとして言い放つ内容に、またため息が出る。

「まぁ、話というのは他でもねぇ。てめぇもさっきの食堂での騒ぎは聞いて知ってるたぁ思うが、こいつだ」

言うや沖田は、ブラウスのボタンに指をかけた。
ぶつり……と、ひとつ外れるごとに押し込まれていた胸が解放されて、ぷるんと震えたのが布越しでも見て取れる。
自分の姿が変わってしまった時と比べて、格段に豊かなその膨らみ。これがあの薬本来の効力なのか、と思うのと同時に、




「……こだますいか」




山崎はぼそりと、頭に浮かんだ単語を口にする。ややこぶりな高級西瓜のブランド名で、ちょうど盛り上がった沖田の胸乳の半球が、それと同じぐらいのサイズだったのだ。

「どっかの誰かと同じこと言うんじゃねぇよ。まな板には言われたかぁねぇな」

当然ながらその「どっかの誰か」が土方とは思ってもいない山崎は、突然不機嫌になった沖田に対して怪訝な顔をする。

「それで……変わったご気分はいかがですか?」

「別に。てめぇの体じゃねぇみてぇな気もするが、痛覚も触覚も普通にあるもんだから、慣れると意識もしなくなるな。もっと特別な感じがするかと思ってたんだがな……前に、てめぇが平気なツラしてチョロチョロしてたのも、分からなくねぇな」

「そうでしょう。だからさんざん副長に怒られたんですよ、俺。注意が足りないって。放っといたら十月十日後にはママになれるぞって。まぁ、沖田隊長の場合は、そんな心配ないでしょう……ちょっと筋力だけは落ちてると思いますけど……」

さりげなく土方に庇われていたことを自慢しているかのような、山崎の口調にカチンとくるが、それはあえて押し殺し、経験者の貴重な話を聞くことにしたものの……。





「筋力けぇ……あまり実感ねぇなぁ」

現に先程も食堂でひと暴れしているのだ。
獲物が小太刀だったとはいえ、いつもと全く変わらぬ状態で扱えていた、と自分では思っている。
強いて言えば、身が軽くなった分、一撃が与えるダメージが落ちているくらいのものか。

「そのうち効果も切れるでしょうし、慣れれば日常生活も問題ない……あ、風呂くらいでしょうね、ここにいて困るのは」

「風呂か。てめぇはどうしてたんだ? 銭湯にでも行ってたのか?」

「ここでなった時は(※『素女丹騒動記外伝』参照)、外で副長が番してくれて、この間、海で引っ被った時は(※『星に願いを』参照)、宿の従業員の風呂借りました……もしかして、それで俺をご指名ですか?」

「ああ、まぁ、それもあるか。考えてもいなかったがな。後で入る時にそうさせてもらわぁ」

「後で、って。じゃあ、なんで俺をここに連れてきたんです?」

その問いに、待ってましたとばかりに山崎の腕を掴み、ぐいと引き寄せる。

「せっかくの女のカラダなんだから、楽しまなくちゃ意味がねぇだろ? 本当なら、土方さんを相手にしたかったんだがな。なんだって、こんなナイスバディを袖にして、てめぇのような貧相なヤツに御執心なんだか、俺ァ理解できねぇや」

自分で喋っているうちに段々腹が立ってきたのか、腕を掴む手に力が篭められる。その痛みに顔を歪めながらも山崎は「何をする気ですか」とその真意を問いかけた。

「なぁに怖じ気付いてやがんでぇ。寿命を伸ばしてやろってぇのさ。ほれ、カツオでもいうじゃねぇか。初物を食ったら寿命が伸びるってぇ」

その言葉にギョッとして後ずさった山崎の髪を両手で掴んで、ブラウスの襟元からのぞく胸の谷間に押し付ければ、白い谷間の間からくぐもった悲鳴が上がる。

「くるしいくるしい!! そんなもんいりませんから」

じたばたともがく山崎の『そんなもの』と言う言葉が、土方に言われた『気持ちワルイ』と並んでショックだったらしく、沖田の顔色が青ざめる。

「寿命を伸ばす前に、ここで人生終わらせてぇか? 俺の巨乳で窒息したぁ、光栄に思って逝きやがれ!!」

掴んだ山崎の顔を更に押し付け、トドメとばかりにがっしりと抱き込む。

「いくら初物がありがたくっても遠慮します! 俺なんかより、局長にでも召し上がってもらってください」

確かに、こいつよりは近藤さんのほうが気心も知れてるし、元々自分を可愛がってくれているだけに、こんな躰ともあればそりゃもう舐めるように……いや舐めまわすくらい、丁寧に扱ってくれるに違いない。

だが……。

「近藤さんのは痛そうじゃねぇか。文句いうな!!」

風呂で一緒になった時に見たことのある、モノの大きさが……最後の一線を踏みとどまらせる。

「いくら幸せな死に方っていわれても、こんなん嫌です……あ、あたまぼーっとしてきた……副長すみません山崎一生の不覚です……なんか暗にナニが小さいとかヒドイこと言われてるけど……」

白い谷間から脱出を図ろうと、山崎は擦り付けるように顔を左右に振り続けている。その感触に沖田の顔が赤く上気していく。

「……ふうっ……くすぐってぇ……早く堕ちやがれってんだ……」

その言葉にはっとしたかのように、山崎の抵抗が増した。

「堕ちれません……っ! 冗談はいいですからっっ」

腕に力をこめて押しのけようとするも、酸欠のせいか思うように力が入らない。
相手が沖田とはいえ、今の身体がこんな状態だから本気を出していいのかと迷うが、意識が薄れていくのを感じて、突き飛ばす勢いでその肩を強く押すのと同時に、自分の躰も大きく動かしてその腕の作る鎖から抜け出した。




突き飛ばされた勢いで、文机の上に重ねてあった書きかけの報告書も舞い上がって、畳の上に飛ばされる。
予想外のことに一瞬唖然とした沖田だったが、露わになった自分の乳房と、畳に両腕をついて「ぜはーぜはー」と肩で大きく息を吐く山崎とを交互に見て「ちっ。やっぱり乳で窒息死させられるってぇのは、フィクションか」などと呟く。

「ア……アンタ夢魔かなんかですか……危険だよ……本気でまた花畑が見えるとこでしたけど」

「ムマ、って何でぇ?」

「異教の淫魔ですよ……んな死に方、冗談じゃない」

よく酒の肴に『腹上死と胸の谷間で窒息のどっちが幸せな死に方か』なんて下品な議論をしたものだが、実際自分がそういう事態に直面してみると、どっちも謹んで願い下げだ。

「ふぅん……もっと確実に呼吸を止めるには……と」

散らばった書類……『盗賊因幡小僧新助 捕獲に関する報告/一番隊』というタイトル以外、白紙に近いそれを拾い上げて机の上に戻すと、まだぜえぜえ言っている山崎に近寄ってその頬を両手で掴み、いきなり唇を重ねた。

「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

突然のことに驚愕したのと、予想外に柔らかい沖田の唇に、山崎は抵抗を忘れる。

舌を差し入れることには抵抗があったのか、少しの間、唇を重ねていただけの沖田だったが、やがて思い直して顎をゆるめ……ふと思いついたのか、ついでとばかりに鼻もつまみ上げる。

完全に呼吸を封じられて、はっ、と我に返った山崎は手探りで服の中の仕込み武器を探そうとするが、真正面から沖田にのしかかられているだけに、懐のものを引き出すことができない。
そして沖田もそれをさせまいと山崎の手を押さえつけた結果、押し倒したかのような状態となり、二人重なり合って畳の上に倒れこんだ。

ドサッと山崎が後ろに倒れ込んだことで一度は唇が離れるが、沖田はめげずに尚も馬乗りになったまま屈み込み、その唇を塞いだ。押しのけられないとあらば蹴り飛ばそうとする山崎だったが、それを読んでいた沖田に足も封じられ、やがて肩を押していた手がぱたり、と落ちた。





「っふぅ……手こずらせやがって」

女の身体のせいか、さすがに息があがっているだけでなく、額にうっすらと汗が浮かんでいる。それを手の甲で拭い、山崎の衣服に手を伸ばす。丈の長い上着をはぐり、一瞬の躊躇いの後、下履きの紐を解き、一気にそれを引きおろす。

「……まぁ、いけるか」

露わにされた萎えたままのそれをちらりと見やり、両の手で握りこんでやわやわとさすりあげると、物理的刺激によって次第に形をつくっていく。

一方、山崎は酸欠状態で頭がぼんやりしたままだったが、不意に下腹部に風が当たるのを感じて顔を上げた。

「いけるか……って、何してんです……アンタ」

目に飛び込んできた光景に声を上げれば、沖田はちろっと紅い舌で自分の唇を舐め、手の中のそれをさらに弄びにかかる。

「何って、元気にしてやってるんでさァ……こんなサイズでよくもまぁ、土方さんをヒイヒイ言わせてるもんだな。土方さんもつくづく、ド淫乱というか…… まぁ、そうでなきゃ困るんだがな。今回は」

「アンタみたいに痛めつけることしか出来ない奴とは、違うってことですよ……一体何が目的なんですか」

沖田の口から土方、という名前を出された瞬間、山崎は頭の中の霧が晴れるかのように意識がはっきりとしてくる。
それと同時に、与えられる刺激に対して息が荒くなるのは押さえられないままに、ぐっ、と沖田の二の腕を掴んで体を起こした。

「なんだとテメェ……最初に言ったろうが。せっかくこのカラダだから、楽しまなくちゃなって。ちょっと、体貸せ」

「体貸せって、オレなんかよりもっといい相手が居るでしょうが。局長のところにでも行ってはいかがですか? 細っこい身体に巨乳なんて、あの人の好みですよ、確実に…………っ!!」

その言葉を全て言い終わるより先に、沖田の振り上げた手が山崎の頬を打ちつけ、そのまま胸倉を掴みあげてまくし立てる。

「ぐだぐだ言わずに、てめーはおとなしくしてりゃあいいんだよ。こっちは素直に反応してるってぇのにさぁ」

「叩かれたら頭がはっきりしてきました……オレが普通の男で、相手も普通の女なら、ハイそうですか喜んでって言うんですけど、そうはいきませんよ」

叩かれた際に口の中が切れたらしく、山崎の唇の傍には血が滲んでいた。

「つッ……このっ、山崎の分際でっ……!」

「山崎の分際で……なんですか?」

「生意気だって言ってンでぇ! 山崎の分際で口答えしやがって!」

反論されたことで神経を逆撫でされた沖田は、カッとして掴んだままの襟首を絞るように、ぐいと締め上げた

「ぐぅぅぅっ……」

締め上げられ、みるみるうちに山崎の顔が紅潮していく。

「いい表情してんじゃねぇか、ザキよぉ」

嗜虐していることで興奮しているのか、沖田は唇の端をあげて艶やかに笑ってみせ、なおも首を締め上げながら、唇を寄せてくる。
山崎は、その手首を掴んで強引に引きはがした。

「……可愛げのない……女は 嫌われますよ……っ」

荒く息を付くその口元に、沖田の薄紅色の唇が寄せられる。

「てめーに好かれようたぁ、思っちゃいねぇよ。俺もてめぇが死ぬ程キライだ」

そうつぶやきながらも唇を重ねた直後、ぐい、と色素の薄い髪を掴まれる。
その対応にプライドが傷付くのか殺気に似た目で見下ろしてくる沖田にひるむことなく、口元に薄笑いを浮かべて、山崎が「奇遇ですね。俺もアンタに好かれようなんて思ってませんから」と言い放った。

「そいつぁ結構だな。気が遇うってぇもんさ……土方さん以外の相手には、好かれたくもねぇし、喜ばせてやりたくもねぇんでさぁ」

最後のそれは聞こえるか聞こえないかの微かな声での呟きだったが、山崎の耳はそれを聞き逃してはいなかった。
それに反応して髪を掴んでいた手が緩んだのを感じ、沖田はその手を掴んでゆっくりと下ろす。

「だから、てめぇでいいんだ。ナニのサイズもちょうど良さそうだしな」

そのまま視線を下ろせば、山崎の昂ぶったままの一物が目に入る。

「大した淫乱ですね。カラダが疼いて仕方ないってやつですか……?」




そういう自分も、女の身体になった時には劣情を持て余して、土方に強請っているだけに、本来ならそう偉そうなことはいえないのだが、その瞬間を知っているのは当人だけだから、棚にあげる。
一方で『ヤって戻るんなら、ここで俺がこの人をヤッちまって、土方への被害を食い止めたほうがいいのか』という考え方もできるが、素直にされるままになるのも腹が立つ。

「ふん、オッたてておいて、何言ってやがる」

逡巡している山崎を鼻で笑った沖田は、片手で再び山崎のモノに触れ、うっすらと滲んでいる体液を指ですくいあげて、摺り合わせた指の間で伸ばしてみせる。

「ほうら、こっちは、こんなにヨダレたらしてんじゃねぇか。てめぇはおとなしく寝てろイ」

指摘され、自分の意思とは別に反応してしまっている下半身に対し、山崎は舌打ちする。

「いいじゃねえか。こんなグラマラスな美女に迫られて据え膳だぜ? しかも初物でさぁ。いってぇ、何が不満だってぇのさ」

くくっ……と喉の奥で笑う沖田の口元からちろりと覗いた赤い舌が妙に艶かしく感じるのは、薬効に当てられてるのか、と自問自答しながらも、きっぱりと「……可愛げがないからに決まってるじゃないですか」と、言い捨てる。

「けっ。 そういうんなら、そいつを息子さんに言い聞かせてみな? くっそ、あつい……」
 
身体が変わってしまったことでの影響か、体内に熱が篭ってきて、着ていることに耐えられず、勢いよく上着を脱ぎ捨て、ベルトも外してスラックスの前もくつろげる。

「……あつい?」

自分の過去の経験を思い出して、山崎は視線を沖田の躰に這わせ、ふとその視線が下ろされたジッパーの所で止まる。
今までだったらばそこにあるべきものがなく、覗いているのは白い下腹部と……黒い下着。
中身は確かにいつもの沖田でも、目の前の身体が女だということを再認識させられた気がして、山崎は沖田の両腕を押さえた。

「言い聞かせますから。離れてください。一応、女性の体ですしね、乱暴に扱いたくないんですよ」

その言葉にあまり信用してない目で睨み付けるが、それでも抵抗しないと悟っておとなしく山崎の腹の上から降りた。
頬が上気しているだけでなく、全身の白い肌が桜色に染まって、目も欲情のせいなのか、かすかに潤んで朦朧としている沖田の姿。

「どれくらいで切れるかな」

「……切れる……?キレるてぇか……なんか、トビそうではあらぁな」

山崎のそれは、自分が初めて飲まされた時のことを思い出しての呟きだったが、沖田はそれを別の意味として受け取ったようだ。

「なぁ、ホントにいらねぇ? そんなに俺ァ・・・魅力ねぇんですかい?」

脱ぎ落とした上着とベルトを邪魔と感じたのか離れたところに押しやって、沖田は自分の胸元に手を添えて下から見上げるように山崎の顔を覗き込む。
その仕種は普通の男にならばかなりのダメージを与え……山崎も揺らぎかけたものの、ここで誘惑に乗ってしまってはと、衝動を押し殺す。

「らしくないことすると、かえって気色悪いですよ」

「ああっ、もう、ド畜生ッ……どこまでもいけすかねぇったら……」

自分の思い通りにいかないことに声を荒げた沖田は、山崎の胸元を突き飛ばした……が、予想外にそれには力が篭っておらず、山崎は一瞬ふらついた程度で、平然としている。

「てめぇに頼んだ俺が間違いだった……据え膳も食えねぇ根性なしたぁな! いい、もう、帰れッ……!」

「……随分と言いたい放題言ってくれますね、沖田さん…………」

ぼそりと呟いた山崎の声色がいつもと違うことにはっとしたその直後、不意に伸ばされた手に露わになった胸を握りこまれる。 

「イッ……痛ぇッ……離せ、コノヤロー…………!!」

「 まぁ………ヤローの理想としては問題ない体でしょうね。ほそっこい体に大きい胸で……こんくらい指が沈むってのは申し分ないですよね」

くすくす笑いながら指先に力を入れれば、指の間から柔らかな肉がこぼれだす。


本館初出:07年08月22日
別館再録:08年07月01日
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