残 り 香/参
「うるっせぇな、もういいから、帰りやがれってんだよ……!」
グッと睨み付けるが、熱っぽい目つきのためにどこか扇情的なのは否めない。
「……あの薬の効果、知らないはずはないですよね?」
胸を掴んでいるのと反対の手で沖田の腕を掴んで問いかけてくる山崎の口元には、今まで見たことのないような笑みが浮かんでいた。
「効果? ……いいから、離せッ…! やっぱり土方さんがいい……土方さんじゃなきゃヤダ……そろそろ帰ってきてるしっ…」
胸を掴まれて、急に山崎に身を任せるのが怖くなったらしく、沖田は逃げ腰になる、
「ココまで人をさんざん煽っといて、今更それはないでしょう、沖田さん。あの薬にはフェロモンを分泌する効果もあるって調べてきたのはだれでしたっけ?
こんな密室で、こんな至近距離でいたらその濃度も増すってもんでしょう?」
「うるせぇ、離しやがれ!!」
「挑発したのはあなたでしょう?」
「知るかよ。嫌いなんだろ。気色悪いンだろ。帰れって言ってるんだから、素直に出ていきゃあがれ、コノヤロー……」
一瞬、腰に手をやるが、自分の腰の刀は、上着と一緒に押しのけてしまったのを思い出し、チラッと山崎の腰の刀に視線をやった。やおら手を伸ばして、山崎の刀の柄に手を伸ばして掴むと、逆手で鞘から抜き出そうとしたが、素早く山崎はその手を掴んでひねり上げる。
「……っと!! 油断もない人ですね」
「チィッ! てめぇ……後で覚えてやがれ」」
やはり筋力が落ちているせいか、あっさり押さえ付けられたことに、沖田が歯がみをしながら毒づく。
「覚えていられたら」
くすくす笑いながら、自分の刀を外して手の届かない部屋の隅に滑らせて、山崎は沖田に向き直る。
「さてと…今まで人を散々に挑発した以上、手加減してもらえるなんて思ってないですよね?」
「けっ、上等じゃねぇか……やってみやがれ」
刀の行方を目で追い、その距離を測るが、無理らしいと悟るが、それでも強気に言い返してくる沖田の耳もとに「……せいぜい可愛く啼いて見せてくださいな」と囁くと、そのまま畳の上に押し倒す。
「てめっ……殺すッ! ぜってぇ、殺してやるからなっ!」
逃げようともがき、脚で蹴り飛ばそうと足掻く沖田の脚の間に自分の脚を割り入れて、その抵抗も押さえつける。
「今更怖くなったとでも言うんですか? さっきまでのあの勢いはどこにいったんです?」
「てめっ……!」
いくら暴れても山崎を押し退けることができないのに苛立ち、腕を振り回してぶん殴ろうとしたが、山崎はその腕をやすやすと押さえつける。
「あまり暴れると……酷くしますよ?」
「うるせぇっ……誰に向かって口聞いてやがる、コノヤロウッ!」
一向におとなしくする気配もないその姿に、ふぅ、とため息をつく。
「やはりこうしたほうがいいですね
片手で沖田の両親指をまとめて押さえつけ、もう片手をブラウスの前立てに伸ばす。そのまま手を横に引けば、数個残っていたボタンが千切れ飛んだ。
「てめっ……なにしやがんでぇっ!」
目の前で起きたことに、一瞬あぜんとして固まってしまったものの、すぐに我に返ってまくし立てる。
「言ったはずですよ、手加減しないって。下手に暴れられると、こっちも面倒ですからね」
完全に前が開いた状態のブラウスを首の方へと強引に引き上げて、腕を抜かない状態のまま後ろ身頃で腕をくるみ込むようにして縛り上げる。
「だだだだっ・・・・てめっ、ちくしょうっ!」
腕が固縛されてしまったので、せめて足蹴でもと、山崎に膝を割り込まれて押さえ付けられたままの状態でもじたばたと抵抗を試みれば「なんですか、こっちも縛って欲しいとでも?」という言葉が返ってきた。
「だっ……誰がそんなこといいやがった! イヤにきまってんじゃねーか! ドチクショウがっ!」
「普段のあのサディストっぷりは、逆にそういうことをされたい願望の現われなのかと思ってましたが?」
「んな願望ねーよっ、あってたまるかっ!それじゃあドMじゃねぇか・・やっ、やめろってぇんだっ!」
腕が固定されているので、されるがままになるしかないのがもどかしく、身体を揺すって逃れようとする沖田の脚からスラックスを引き抜かれる。
白い肌と対極の黒い下着に、クス…と山崎が笑う。
「挑発してくださった分……きっちりと躰で払っていだたかないと。それにしてもちゃんと下着まで女物で、随分と準備がいいことで」
「その気がねぇって言ってたくせに、なにが払っていただかないと、だ、ふざけんじゃねぇ、コンチクショウッ! ……そらぁ、アレだ、土方さんに着せようと思って買ってた水着だ。別にこのために準備したんじゃねーよ」
「よくお似合いですよ? 」
くすくすと笑いながら首筋から胸元に指を這わせる
「そんな褒め言葉、おおよそいらねぇ」
ぞわぞわっと寒気を感じ、実際に肩のあたりの肌が嫌悪に粟立つ
「どうしました? 随分と遠慮深いことをおっしゃって……いつもの沖田さんらしくもないですね」
楽しそうに触れるか触れないかのタッチで胸元に指を滑らせると、沖田の躰がぴくりと跳ね上がるのと同時に、口元からふっ…と息が漏れる。
「さっ、触んなっ!」
いつもと様子が違う山崎に怖れを感じるものの、それを口に出すことは出来ずに言葉に詰まる。
「それはできない相談ですね。あなただって自分が俺と同じ立場なら、やめろといわれてもやめられないでしょう?」
下着越しに片胸を掴む指先にゆっくりと力を入れていけば、沖田の口からは苦痛の声が上がる。
「すぐ痛いだけじゃなくなるはずです。折角その薬を飲んだんですから……楽しませてあげます」
「何が……てめぇなんかに……ひゃっ……やめ……っ」
肘で山崎の頭を押しのけようとするも、当の山崎はそれを簡単に押し返して、鎖骨の窪みに舌を這わせながら、胸を揉みあげる
「女の躰を楽しむんじゃないんですか? 折角ですからいろいろ試してあげますよ」
「やだっ……だから、もうイイって言ったじゃねぇかっ……ホントにやっ……」
そう言いながらも身体の奥が熱いような、むず痒いような違和感を感じる。
「嫌だとか言いながらココ固くなってますよ?」
下着の中へと入り込んだ指先に胸の飾りを弄ばれ、声が出かかったのを押し殺しながら『違う…っ!』と拒もうとするが、身体は自分の意思に逆らって、びくびくと反応を返してくる。
「いいことを教えてあげましょうか」
その言葉に、半分涙目になりながら、上気した顔で山崎を見上げる。
「俺も自分なりにあの薬のことを調べたんですよ。沖田さんほどの荒仕事じゃないですけどね……ちょっとあの二人の屋敷に忍び込んで色々と探してきて判ったんですよ。あの薬はフェロモンを発するだけじやなくって、強い催淫作用もあるんだそうですよ。
「……はぁ? あのふたり……ジョルジュとあの学者の……? んんあっ!」
聞き返した直後、ぷくりと立ち上がった乳首に歯を立てられ、悲鳴のような声を上げる。
「生憎、俺は薬が効きにくい体質でして、変化もあんな感じでしたが、本来の効果は今に出ているとおり。あの時は、俺だって結構キてたんだから…………カラダが疼いて仕方ないでしょう?」
「キてた……って……俺は疼いてなんかっ……!!」
そう言いながらも、腰の奥が熱く、下腹部が濡れて気持ち悪くなってるんのを感じ、膝をこっそり擦り合わせるようにして堪える。
「それはこれから確かめてあげますよ」
胸元から腰をなぞってそのまま下へと下ろされて行く手の感触に、拒絶の言葉を吐きながら足をばたつかせて逃げようとするが、それが却って手を誘い入れるような形になるとは思いもよらない。
「嫌じゃないでしょう? ここだって何もなってないなんてことは、まずないでしょう?」
「っ……そっ……そんなことなっ……」
身をよじったその瞬間、指が触れた部分が布の下で、クチュッと微かに鳴った。
「そんなことない? じゃあ確かめましょうか」
脇の結び目がゆっくりと解かれていく。
「いらねぇっ……やめろっ……!」
そう叫ぶのと、左右の結び目を解かれた布がはらりと滑り落ちて、下腹部が明りの下に晒されるのは、ほぼ一緒だった。
「薬の効果ですかね、初めてとは思えないくらいですよ?」
しっとりと濡れた薄い下生えに触れ、くすくすと笑う声にカッと顔に血が上る。
「うるせえっ……ちいっ……」
されるままになっているのも口惜しく、ブラウスに包まれた腕をごそごそと動かしているうちに、ブラウスがビリッと微かに音をたてる。
この気を逃さず強引に片袖を抜くと、背中と肘でいざるようにして山崎の下から抜け出そうとした……が。
「言いましたよね、おとなしくしててくださいと」
山崎がそれを許すわけもなく、腰を掴んで引き戻され、また組み敷かれる。
「やだっ……たっ……」
微かに残っている矜持が邪魔をして『助けて』とは言えずにいる沖田の手首から先が、ブラウスに包みこまれた上からさらに山崎の着物の帯を使って、再び拘束される。
「ちくしょうっ…っ!!」
「チクショウなんて、可愛いお嬢さんの使う言葉じゃありませんよ? 」
「なにが可愛いお嬢さんだ、ドチクショウ……さんざっぱらカワイクネーとかホザいてたくせにっ……」
「性格はともかく…躰は正直で可愛いですよ」
下生えを掻き分けた山崎の指先が開きかけた密壷の縁をなぞる。
「こだますいかとか言いたい放題いってたくせに、今さらッ……んっ」
ジロッと睨み付けた後、フイッと顔を背けて歯を食いしばるようにして、声も殺した状態で、ただ、苦痛を耐えるように身体を強ばらせ固く目を閉じる。
「それでも最初に挑発したのは……沖田さんだということはお忘れなく?」
押し殺そうとする声を引き出すために、陰核を指先ですりあげれば呻くような声と共に沖田の身体はビクっと反応を返す。
「声、出したほうが楽になりますよ?」
耳元に囁かれたそのその吐息を拒み、ぼんやりと……こんな時間になっては土方が自分の部屋に訪れることはないのを知りつつも、偶然でも来てくれないかと、身体の反応に思考を占領されそうになりながら考える。
突然大人しくなった沖田を怪訝に思い、何を考えているのかと。その顔を覗き込みながら問いかけると、暫く間をおいて「別に」と返事が返ってくる。
「……そうですか」
ちゅぷ…という音と共に、指が中へと押し込まれる。
「他事を考えないほうがいいですよ?」
息を詰めるようにしてあがりかけた声を堪えるが、全身がビクッと反応することまでは止めることができず、固く閉じた目蓋の裏に、土方の姿を思い描く。
<これが土方さんだったらいいのに……>
「中、凄く蕩けてますね……」
ぐっと根本まで押し込まれた指が、ぐちゅぐちゅと濡れた音を立てながら抜き差しされる。
自分の身体がそんな音を立てているとは思いたくなくて、耳を塞ぎたいが、腕を封じられているのでそれも適わない。
「ふぁっ…ぐっ……」
<ここを弄んでいるのが、土方さんだったら……そう思ったら、耐えられる……>
逃れる術が見つからない中、ただ自分にそう言い聞かせ続けていると、声を立てない沖田にイラついたかのように指を増やして責めあげる山崎が、ため息と共に「随分と頑張りますね」と呟く。
ちくしょう、ベラベラしゃべんじゃねぇ、このバター犬め……いちいちてめぇだと思い知らされると気が散るンでぃ……と、腹の中だけで罵って、ちろり、と視線だけよこすも再び目を閉じる。
「いてぇけどな…。いてぇ方が、まだ、耐えられる……」
その言葉に神経を逆撫でされたのか、ぴくりと山崎の眉が動く。
「痛いほうがお好きなら、そうしてあげましょうか」
いくら沖田と言っても今は女の身体だけに、少しは楽にしてやろうかと思っていたのだが、その考えを捨てて指を引き抜き、代わりに自分の昂ぶったソレを押し当てる。
目を閉じたままでいる沖田だったが、それが何か見当がついた。嫌悪に肌が粟立つのを覚えるも、思考による拒絶とは裏腹に、それを悦んでいる身体の反応もどこかにあり、その意識の乖離に恐怖に似たものを感じる。
「本当に、力抜いててくださらないと……痛いですよ?」
そう宣告して入り口に数度擦り付けた後に、ぐっ、と体重を乗せる
「いっ…いたぁああっ……やぁあああっ!」
さすがに耐え切れず苦痛の悲鳴をあげ、躰を仰け反らせる。
「……だから、力を抜けと…。く…っ…やっばりキツッ」
自分も体感した痛みだけに、そう呟くのと同時に、予想以上の狭さに小さな声で呻く。
「いたっ、やだっ……抜きゃあがれ、このっ……いたっ……やだああああっ!」
余計に身体を痛めることになると分かってはいても、我慢できずに叫びながらもがく。
「痛い方が良かったんじゃないんですか? でなかったら、もう少し慣らしてあげてもよかったのに」
くすくすと笑って更に腰を進めてソレを奥までねじ込んでいきながら、ふと思い出したように手を伸ばして手首の戒めを解く。
「苦しかったら、縋りついてもいいですよ?」
一瞬、腕を回そうとするものの、相手に先に言われたことで素直に抱きつくこともできず、両手で床に爪を立て「ぜってぇこいつ、殺してやる」と腹の中で呟くことで耐える。
そして再び、これが山崎でなく土方であったら……こうやって番っていても、痛いなんて思わなかったのに……と自分に暗示をかける。
「さてと……全部入りましたけど……どうしましょうか」
そう言いながらも、ゆるゆると腰を動かして、沖田を煽りたてる。
「うるっせぇ、てめぇ…しゃべんな……」
相手の動きがゆるやかになったせいか、おずおずと腕を首にまわすと、ふわりと記憶にある匂いが鼻を掠めた。
先ほどから感じていた匂い……土方のいつもの煙草の匂いと同じ匂いが、山崎の髪にこびりついているのに気付き、それをそっと吸い込む。
<これで土方さんだと思える……そう思えればいい……>
沖田のそんな心のうちなど知らない山崎は、やっと沖田からのアクションがあったことに口元に笑みを浮かべる。やはり男性心理としては、己のモノを与えられた女には悦んでもらいたいという願望がある。自分に縋り付いて来ているのだと思うと、急に相手が可愛く見えてくるから不思議なものだ。
「そのままでいてくださいね……?」
「頼まぁ……いいから、黙っててくんな……」
鼻先を髪に埋めるようにしながら、縋りついて目を閉じる。
その言葉に一瞬怪訝な顔をするも、あまり大きく突き上げることはせず小刻みに動かしてやると、それまで耐えていた反動か、ようやく強ばりが取れて、甘い喘ぎ声が漏れ始める。
「ふっ…ふぁっ……ああっ……」
土方にならば自分のどんな姿も見せていい。
土方にならば…
繋げられた場所から聞こえてくる濡れた音、耳元を掠める吐息。
その全てを土方が与えてくれると思うだけで、今まで押さえつけていた箍が外れていく気がする。
どんな形でも土方が欲しい
いつもは与えてもらえないから、奪うことしか出来なかった。
今なら…自分の全てを土方に曝け出せる。
「あっ……いいっ……ひじ…か…あんっ」
そう名前を呼んだ瞬間……ぴたりと動きが止まった。
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