いまそしる/上
その夜は、月の明るい夜であった。
そうでなければ、屯所の裏手でうずくまっている小柄な人影を見落としていたに違いない。
「オイ、そこの。具合でも悪いのか?」
面倒ごとに巻き込まれる気はサラサラ無かったが、見つけてしまったのだから仕方ない。見捨てて死なれても目覚めが悪いだろう。
「おなかすいた」
「ハァ?」
近寄って顔を覗き込む。その翡翠色の瞳には、見覚えがあった。あり得ない、だが現実に目の前に『それ』は居た。
「い、伊東? オメェ、また、身体が?」
「土方君、おなかすいた」
人のハナシをまったく聞かない状態で、首にしがみついてきた。抱き取った身体は、良く知っているボリュームよりも遥かに小さくて柔らかい。
こんなのを連れて帰ったら、大騒ぎになるのは間違いない。それに、こんな時間では屯所の食堂に行っても、食事にはありつけまい。
「ち。ファミレスでも行くか?」
こっくり頷いて「ごはん」と呟いた表情は、元の憎たらしい『彼』とは似ても似つかぬ、あどけないものだった。
「これ」と、メニューブックを開いて指差したのは、パスタのセットだった。店員を呼んでやっても自分で言おうとしないので、仕方なく土方が「パスタのセットで……おい、ドリンクは何にするんだ? 紅茶? おい、レモンかミルクか、だってよ。どっちもいらねぇのか。ストレートだとよ。食後でいいな? んだよ、飯食いながら飲むのか?」などと注文してやる。
「俺は……飯はいい。ホットで。砂糖もミルクもいらねぇ。あ、マヨネーズつけてくれ」
「は? マヨネーズ、ですか」
オーダーを入力するハンディターミナル端末を手に、店員は呆れた表情を浮かべたが、そこはベテランらしく「では、以上で御注文よろしいですか?」と、素早く笑顔を取り繕った。
「ドルチェも食べていい?」
「ドルチェ?」
「これ。季節限定だって」
「甘味か。勝手にしろ」
店員が、かがみ込んでその指先を見て「初夏のフルーツソースのパンナコッタですね?」と尋ねると、こっくりと頷いた。
ハンディをいじりながらオーダーを繰り返した店員が戻ると、土方は声を低めて「……で。なんでまた、その格好に戻ったんだ?」と尋ねた。
「分からない」
「んだと?」
「気付いたら、あそこに居たんだ」
「どこかに行ってて、妙なクスリ飲まされたとか、じゃねぇのか?」
「多分。でもよく覚えてない」
埒があかねぇ、と土方が呆れて言葉を失っている間に、セットメニューのスープとサラダが運ばれて来た。よほど空腹だったのか、伊東は土方そっちのけでパクつき始める。
しばらくその様子を眺めて居た土方が、ポツリと「テメェ、俺じゃなくてどっか悪いヤツにでも拾われたら、どうするつもりだったんだ」と尋ねると、顔をあげて「土方君が拾ってくれると思ってた」と答えた。
「何を根拠に」
「根拠はないけど」
そこにカルボラーナが届けられて、会話が途切れる。
「ったく。着物、汚すぞ……ほれ、顔にタレがついてるついてる」
「タレ?」
手を伸ばして、頬を汚している白いソースを拭ってやる。嫌がるかと思ったが、おとなしくされるがままになって「取れた?」と、首を傾げた。
「ああ、取れた取れた」
「ありがとう」
まったく『らしくない』素直さでそう言うと、袖をまくってフォーク片手にパスタとの格闘を再開した。そういえば、フォークなどの扱いを含む仕種のひとつひとつがぎこちないというか、あどけないというか。それがますます、元の姿とは程遠い印象を与えている。
土方は無意識にパスタソースのついた自分の指を舐めようとして、慌てておしぼりで拭った。
「今晩はよそに泊まれや。どうせまた、一晩経てば、元に戻るんだろう?」
「土方君も一緒だといいな」
「は?」
「財布ない」
「落としたのか?」
「分からない」
コノヤロウ、最初から俺にタカるつもりだったのか。
いや、それよりも先に、財布を失くしたのなら、さっさと警察に届けろ……いや、俺らが警察か。土方は懐から手帳を取り出すと、手帳の背に挟み込んでいたボールペンを抜いた。
「遺失届け出して、手配かけといてやる。どんな財布だ。札入れか? 二つ折りか、長財布か? 革か布か……色は?」
「覚えてない」
「は? 身分証明書か何か、入ってるか? 免許証とか」
「運転免許は持ってない」
「おーい。クレジットカードとか入ってたら、オオゴトだろうが」
「ふーん?」
小学生じゃあるまいし、まさか財布に名前が書いてあるということも無いだろう。
土方がカックリと脱力しているのを、まるで他人事のように不思議そうな表情で眺めながら、伊東は届けられたドルチェをスプーンで崩し始めた。
成人男女が安く泊まるといえば、お決まりの連れ込み宿しかあるまい。
「何もしねぇから、安心しな」
あえてそう宣言すると、土方は己の上着を脱いで伊東の頭からかぶせてやった。ラブホテルに入るのに顔が見えるのは、いささか体面が悪いだろうという配慮のつもりだったのだが、伊東は「これじゃ犯罪者みたいだ」と言って、結局肩に羽織る形になった。
「ツラ晒して平気なら、上着返せ」
「やだ」
着物の上に隊服の上着というチグハグな格好の何が嬉しいのか、伊東は妙に上機嫌で胸元を握り締めている。
土方はイラッとしたが、これも元に戻るまでの我慢だと自分に言い聞かせ、伊東の腰に腕を回してエスコートしてやった。
フロント前で煙草の自動販売機を見つけて、土方は自分の本来の用事を思い出す。そういやぁ、俺ァ、煙草買いに来ただけなんだっけ。深夜残業の休憩がてら、ちぃとコンビニまで散歩してくると山崎に言い残して……やべ、怒ってるかな。携帯電話を引っ張り出すと、電話やらメールやらの着信履歴が十数件も溜まっていた。
「げ」
恐る恐るメールを開いていると「色んな部屋があるけど、どの部屋がいいかな」と、伊東がのんきにまつわりついてきた。
「んなもん、寝るだけなんだから、どれでもいい」
「ピンク色のとか……なんか色々あるみたいだけど」
「好きにしろ」
開封するだけで呪われそうな怒りのメールを順に開いては削除しながら「チクショウ、誤解だ」と呟いていると「ゴカイじゃなくて、サンガイだよ?」と声をかけられた。
どうやら、伊東が客室案内パネルから、客室のキーを抜き出してきたらしい。
「いや、そのゴカイじゃなくて……サンガイ?」
「サンマルニ、だって」
いつまでもロビーにいるのも不自然なので、部屋に移動することにした。エレベーターに乗り込むと、子供のようにキョロキョロしている。こういう場所に縁がなさそうな男だっただけに、物珍しいのだろう。
三〇二号室に入ると、室内全体がパステルカラーのうえにヒラヒラしたフリルで飾られていた。どうやら伊東の選択は『ピンク色の』であったらしい。
「気恥ずかしくなるな」
「別の部屋の方が良かった?」
「どんなのだ」
「ナチスっぽいのと病院っぽいの……あと、電車の中みたいなのもあった」
SMプレイに医療プレイ、痴漢プレイといったところか。そういう意味ではこれが一番マシなのかと苦笑しながら、ベッドに腰を下ろす。浴室だのトイレだのをのぞき回っていた伊東が、それに気付くとパタパタと駆け寄って、隣に座ってきた。
「だから、何もしねぇぞ」
苦笑して、ベストの内ポケットから紙巻き煙草を1本取り出す。だが、そこでスッとライターやマッチの火を差し出す山崎らとは違って、伊東はぽやんとその様子を眺めていた。
元は高飛車な男だから、そういうへりくだった真似をしたとこはないのだろうか? 接待の席ではそんな場面もあるだろうに……と、スラックスの尻ポケットからライターを取り出したが、火を点す前に、土方の唇から煙草がひったくられた。
「煙草は臭いから、キライだ」
「あのなぁ」
枕元の屑篭に、未使用の煙草を放り込まれ、さすがに叱ろうと真正面から顔を覗き込むと、それを何の合図と解釈したのか飛びついてきて、唇が重なった。
伊東先生、帰りが遅いな……高杉、もとい梅之助様のところに行ったはずだから、どこに居るか探されたら超マズいと思うんだけど。
篠原は心配になって、提灯片手にこっそりと屯所を抜け出した。道々を照らしながら歩いていると、錦織りの札入れを見つけた。仰々しく縫い付けてある家紋を見るまでもなく、伊東のものであるらしいと知れた。その側には、携帯電話まで落ちている。
「ちょ、何かあったの?」
同時に連想したのは、玄関先にパンツだの眼鏡だのを包んだ風呂敷を放置していた、先日の事件だ。あの時何があったのか、先生はまったく話してくれなかったけれども。
必死になって歩き回っていると、同じく誰かを血眼で探しているらしい山崎と出くわした。
「副長、知らない?」
「え? 副長が誰かは知ってるけど、今どこにいるかは知らないよ」
「誰が、そんなトンチを聞かせろと言ったよ!」
唾が飛んで来そうな勢いで喚かれる。篠原は露骨に嫌な顔をしたが、その会話をしながら、もうひとつ思い出したことがあった。
あの晩、明け方に先生を連れて帰ってきたのは、副長だったな……何か符合するものを感じて、今度は「ザキ、参謀知らない?」と尋ねた。
「誰かは知ってるけど、今どこにいるかは知らない……って、まさか、参謀と一緒に居るっていうのかよ!?」
「確証はないけど」
「まさか、どこかで決闘になってるとか? 相討ちとかして倒れてたらどうしよう! テメェそんな危険人物、どうしてほっぽらかしてんだよチクショウ、副長になにかあったら、責任とってもらうからなっ!」
「責任って、何? オマエを嫁にとれってか?」
「そんな責任、おおよそイラネェ!」
脳の血管が切れそうな勢いで地団駄を踏む山崎を、篠原はシレッと見下ろしている。
「可能性、無くはないんだ。前もそんなことがあった」
「へ? 副長と参謀が? あのふたり、犬猿の仲じゃん。殺し合い以外で一緒に居る理由なんてあるのかよ? だってウナギと梅干というか、スイカと天ぷらというか、はまぐりとみかんというか、りんごとさばというか、かぼちゃとえびというか、とうもろこしと……何だっけ……ともかくあり得ない組み合わせだろうが!」
なんで喩えが全部、食いモノなんだ……と呆れながらも「とうもろこしとかき氷、だろ。まぁ、カニとかき氷という説もあるけど」とツッコんでしまうあたり、篠原も山崎の食い意地を笑えない。
「どっちがカニで、どっちがかき氷だよ! 参謀がメガネのギョロ目でカニなのか? 副長は確かに冷酷だけど、あったかぁい時だってあるんだからな!」
「そんなのどっちでもいいよ……だったら、朝にでもなれば、副長が連れて帰ってくるだろうな。俺、戻るわ」
「えええええっ?! 何? どういうことぉ!?」
唖然としている山崎を捨て置いて、篠原は踵を返した。
「オイコラ。どういうつもりだ?」
「こないだの、して?」
「マテ。人のハナシを聞いてるか?」
「一応」
「バカか、テメェは」
そう罵りつつも、唇をついばみにくる身体を突き飛ばすことができなかったのは、腕の中の質量が元のサイズよりもあまりに小さく華奢だったせいだろうか。それに、伊東だとさえ思わなければ、細い肢体も薄い胸の膨らみも悪くはなかった。
「だって、ここはそういう行為をする場所なんだろう?」
「だから何もしねぇって、何度言わせるんだ」
「してもいいのに」
伊東が耳たぶに咬みついてくる。甘い体臭が鼻孔をくすぐった。女体化の薬効なのだろうか、クラッと目眩がする。
「なんで俺なんだ。それとも、誰でもいいのか? オメェもクスリのせいで正気じゃねぇだけだろ」
理性を保とうと、土方は説得を試みたが、伊東は「そうかもね。でも、クスリのせいにしてしまえば、君も気が楽だろう?」と甘く囁いた。土方は返答に詰まって数拍固まっていたが、やがてチッと舌打ちして、伊東の肩を押して横たえてやった。
「いいのか? 知らねぇぞ?」
肯定の返事の代わりなのか、クスクスと笑ってみせる伊東を見下ろし、土方は居直った。着物の裾を割って、奥へと指を這わせる。下着が妙にしっとりとしているのは、上質の絹地だということもあるだろうが、包まれている部分の熱と湿り気も影響しているのだろう。
「もうこんなに濡らしてやがんのか」
布をかき分けて花心を探り当てると、既にぬめりを帯びていた。ぴくっと女体が震え、吐息が熱くなる。
「ぁ……ぅっん……そんな……分かっていて言わせるのかね」
「言わなきゃ分からねぇ野暮天なもんでね」
「意地悪だな、君は」
「これでも多少は、優しくしてやってるつもりだけどな」
花心を嬲っていた指を滑らせ、その先の入り口に押し当てる。
「多少じゃ嫌だ。もっと……」
「贅沢だな。俺がサービスしてやるなんて、滅多にねぇんだぜ?」
入り口で溢れてるぬめりをすくって、浅い位置でくちゅくちゅとかき回す。その音に羞恥心を煽られたのか、伊東の顔がカッと赤くなる。
「どうした? 音か? 音がすんのは俺のせいじゃねぇぜ? それとも、指、嫌か?」
そういうと、なおも執拗に音をたてさせてる。伊東は「嫌じゃない……けど」と消え入りそうな声で答えつつも、下肢からの濡れた音に耳を押さえた。
「けど、なんだ?」
嗜虐的な表情を浮かべた土方の視線に気押されるように、さらにか細い声で「その……もっと」と呟く。
「もっと? もっと、このままがいいか? それとも、もっと奥、か?」
そう言うと、指をぐっと押し込み、ぐるっとかき回した。伊東の身体が大きく爆ぜる。着物はとうに腰の辺りまでまくれ上がって、開いた脚がむき出しになっていた。
「ぁん……奥……がいい」
「そうか、奥がいいか。素直でいい子だ」
御褒美でもやるように唇を重ねると、指を増やしてより奥へとねじ込んで、抜き差しを始めた。その指が付き入れられるたびに、唇の間からは声が漏れ、伊東は無意識のうちに、その手に擦り付けるように腰を揺らしていた。
「ふ……ぁっ……ぁぁ……ぅん……」
桜色に染まった耳朶に噛み付くように唇を寄せて「近そうだな……このまま、楽になるか?」と囁きかけると、首にすがりついて来て「や、ぁっ……それだけじゃ、たりない」と訴える。
「指だけじゃイヤか? そうだな、俺も足りねぇな……いいか?」
伊東の手を取ると、声に煽られて昂っていた自分のものに触れさせた。
「こんな状態だがよ……入りそうか?」
スラックス越しにも感じられる触れたものの硬さと熱さに、伊東はたじろいだ。本当に以前、こんなものが自分の身体に入ったのだろうか? だが、その戸惑いもかき消される程の、食欲にも似た強い情動が込み上げて来て「ほしい」と答えていた。
「痛ぇとか裂けるとか染みるとか、後で泣いても知らねぇぞ? ま、今更イヤって言われても、引けねぇがな」
土方が、一度手を抜いた。べったりと体液がまつわりついた指を舐めると、自分の服を脱ぎ捨てる。続いて、伊東の着物の帯を解いて剥ぎ取ると、すっかりぐしょぐしょになっている小さな下着を足首まで引き下ろす。
全裸で脚を広げ、あられもない姿になっていることを自覚することもできないのか、伊東はぼんやりしているが、土方はそれには頓着せずに己の根元を握ると、先端を押し当てて軽く息を吸い、ぐっと腰を進めた。
「んぅ……あぁぁぁぁぁぁっ……っっ……ぅ……ん」
その瞬間、割り込んでくる質量と熱に、伊東が悲鳴に似た声をあげた。全身に力がこもり、空を掻く爪先がびくびくと痙攣する。それでも己を貫く槍を拒むどころか、むしろ熱にうかされたように「もっと、もっと来て」と繰り返しては、腰を揺すり始めた。
「まだ半分も入っちゃねぇのに、そんなによがってたら、先がもたねぇぜ?」
激しい反応をなだめるように、いつのまにか汗に濡れている伊東の髪を撫でてやりつつも、土方は小刻みに楔を打ち込むように腰を進める。一度は破瓜を体験しているとはいえ、再構築された身体は処女膜まで再生されたのか、粘膜が伸びきって裂けていくのが感じられた。
「熱い……よ……ひじかた……ひじ……かた……くん、お腹、あつ……い」
先端が行き止まりに当たったのを感じ、一度動きを止めた。
「ああ、こっちも溶けちまいそうなぐれぇ、熱いな。動いて、大丈夫か?」
そう尋ねたのは、あまりにも張り上げる嬌声が苦し気なうえに、内部が妙に小振りで、下手をすると壊してしまいそうな気がしたからだ。現に、繋がっている部分からは、血と粘膜が混ざりあって泡混じりに吹きこぼれている。だが、伊東本人が「う、ん……動いて」と答えたことで、土方は深く考えるのをやめて居直った。
もし、突き破ったとしても、俺のせいじゃない。本人がいいって言ったんだから。
「しっかり、つかまってろや」
そう囁くと、おもむろに突き上げ始める。腰を引くと吸い付いてくるくせに、突くときにはぬるりと受け入れる内壁の感触に、文字通りに搾り取られそうになりながら、何度か込み上げてくるものをやり過ごした。
先端が子袋を突き上げる度に、女が首を打ち振りながら甘い声で切れ切れに啼く。その声に煽られて動きが激しさを増し、肌がぶつかりあう音や番っている場所からのぐちゅぐちゅいう音が、さらに嬌声を誘った。
「ぃい……きちゃ……う……や……らぁ……」
「あん? イキそうなのか……いいぜ、いっちまえ」
「君も……いっしょが……いい」
ふるふると頭を左右に振りながら、そんな可愛らしいことを言う姿は、まさに別人だ。土方は苦笑いしながら「……あ、ああ、分かった。一緒に、だな……?」と答えてやる。
「いっしょ」
そう呟くと、伊東は朦朧とした意識下でも嬉しそうに口元を綻ばせた。土方の首に腕を巻き付けると、自分から口付けてきた。それも、重なり合った唇の端から唾液が流れ落ちて顎から胸元を伝うほど、深く。
「ン……も…こっちもイきそうだな。イッて、いいな? あ……クッ…イッ……ンッ……」
土方も快楽のあまりに、女のような嬌声に似た声があがりかけ、辛うじて飲み込んだ。それでも込み上げる感覚に圧倒される。伊東も獣のように唸りながら、背中を一瞬、のけぞらせる。そして最奥で弾けて中に広がっていく熱の感触に、ぴくっ、ぴくっと小刻みに身体が震えた。
「あ、ああ……あ……ッ…」
長く尾を引く絶頂の叫びは、どちらの唇から迸ったものだったのだろう。
いや、声だけではない。朦朧としている余り、重なりあっている肉体も、どこから先が相手のものでどこからが己なのか、その境界が把握できない。ただ接触面の熱だけが世界の全てと化したような錯覚に陥り、やがて視界が完全に真っ白になった。
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