Nicotiana【2】
ともかく、他の隊士らに急にそんなことを公表してもパニックになるだろうから、基本的には内密に……ということで、話がまとまった。
もちろん、沖田の望み通りに、近藤が彼(彼女?)を娶るということになれば公表せざるを得なくなるだろうが、この新薬の効能がどれだけ続くのかは未知数だ。今まで何回か例があったように、一日で切れるのか、それとも数日か、数年か、一生か。
「悪いが、吉村にだけは教えておく。効能と……解毒剤が手に入らないか、調べさせる」
解毒剤と聞いて、沖田も山崎も「ええええっ!」と喚いた。
「そんなぁ。せっかく、苦しい思いをしてこの身体になったのにぃ」
「土方さん、この命がけの恋心を理解しねぇたぁ、大した朴念仁ですねイ。あんたの身体にゃあ緑色したなんかの汁でも流れているんですかイ」
「そうだぞ、トシ。こんなロリ顔美少女の萌え萌えボインは、そうそうあるもんじゃないんだぞ。そりゃあ、俺にはお妙さんがいる。お妙さんは菩薩のような心で、ケツ毛ボーボーの俺を愛してくれている。だが、それ以上にここまで危険を冒してでも想いを遂げんとする、このむちむちプリンの心意気を慮ってやらねばなるまいよ」
「近藤さん……その台詞まるまる、一体どっからツッコんでいいのか、俺ァまるっきり見当もつかねぇよ」
土方は深々とため息を吐いて、内線電話を取り上げた。
「大部屋か? ああ、吉村を頼む。いや、山崎じゃなくて吉村だ……おう、俺だ。ちと、急ぎの仕事だ。一番隊隊長室に来い」
それから数分もせずに、山崎の同僚、監察方の吉村折太郎が「失礼します」と障子をカラリと開けたのだが、そのときの表情ときたら、かなりの見ものであった。
「ザキ……? こっちは……まさか、沖田隊長?」
口をぽかんと開けた間抜け顔で、おろおろと上司の土方を見上げる。確かに以前、山崎が女に変化した姿なら、見たことはある。だが、それもすぐに元に戻った筈だ。
ましてや、目の前のグラマラスな美少女が、沖田だとは。
「……まぁ、見ての通りだ。てめーは、この薬について調べて、ついでに解毒薬を手に入れて来い。あと、これな」
土方はとても仕事の指示とは思えない断片的な言葉と共に、小さく折り畳まれて皺になってる紙片を着流しのたもとから取り出し、吉村の掌に落とし込む。
だが、吉村も長年、この理不尽な上司の下で働き続けているベテランだ。その土方の仕種から、ここでそれを広げない方が良いということ、そしてこれが調査対象に近づく唯一の手がかりなのだということを察すると、それ以上あれこれ尋ねることもなく「分かりました」と一礼して、部屋を出ていった。
「吉村ーっ、見つけてこなくていいからぁ!」
閉められた障子に向かって叫ぶ山崎の口を、慌てて土方が押さえる。
「やかましいっ、騒いだら他の連中が来ちまうだろうが。ったく……厄介なこと言っちまったぜ」
しばらく手の下でモゴモゴ口を動かしていたのがおとなしくなるのを待って手を離すと、再び山崎は口を開いた。
「厄介ですか? まあ、多少は色々あるとは思いますが、俺、料理洗濯それなりにできますし、土方さんの子どもだったら、頑張って産めると思いますよ」
「だから飛躍すんな!」
「あ、そうですね。その前に、うちの両親に挨拶に行きませんとね。式はしなくてもいいですよ。でも、写真だけは撮りましょうね。きょうび、マタニティのウェディングドレスってのもありますから」
「なんの手順だ、何がマタニティのウェディングドレスだ。ふざけんな」
「おめぇら、そんな乱れた関係だったんか……まぁトシは俺と違って、女の扱いも慣れてっかんな」
近藤の言葉に沖田と、そして山崎までもうんうんと頷く。
「だから、してねぇって言ってんだろうが」
「え? してくれないんですか? シングルマザーですか? でも、戸籍の問題がありますから、認知だけはしてください」
「認知もへったくれも、まだ何もしてねぇだろうが!」
いつもの土方なら、こうやって喚きながら、掴みかかって山崎の衿首でも締め上げるところだが、今回に限っては、逆に後じさるようにして距離を取っている。山崎はそれに気付いて、口角をニィッと吊り上げると、ずいずいと膝でにじり寄った。
「どうしました? いつものように殴りかかったりしないんですか? 押し倒して乱暴しないんですか? なぜ逃げるんです? 俺が怖いんですか? それともご自分が抑えられなくなりそうで怖い?」
反射的に山崎の襟首を掴みあげた土方だが、その体がいつもと違うことを思い出し躊躇ったのに気付いてか、さらに山崎の口元が吊り上がる。
「怖いですよねぇ。あの薬で変化した今の俺の身体からは、フェロモンが出てるんですもんねぇ。催してくるんでしょ? 別に恥じることもありませんよ。薬効なんですから、仕方ないことです」
「てめぇ……調子にのんなよ、コラァ!!」
「トシっ、待てっ!!」
揶揄するようなその言葉に一瞬にして頭に血が上り、近藤の制止も間に合わず、土方は勢いのまま山崎の頬を張り飛ばした。
いつもより幾分軽いせいか、山崎は踏みとどまることも出来ず、背後の刀掛けを巻き込んで床の間へと倒れ込んだ。
「ああああああっ、無事けぇっ!!」
慌てて駆け寄った沖田は山崎を引き起こし……否、押しのけると、巻き込まれた刀を拾い上げた。
「……心配すんのそっちですか」
「鞘が逝っちまってたら、おめぇにも怪我させちまってんだろうがっ!!」
鞘から刀身を引き抜き、傷が無いことを確かめて安堵のため息をついた後、くるりと土方に向き直る。
「土方さん、何か言うことあるんじゃないですかイ」
「は、何を言えと?」
「アンタ常日頃、蹴って殴って嬲ってしてっから、感覚がどっかいっちまったんですかい? 一歩間違えてたら女を傷モノにしてたとこだったんですぜぃ?」
「中身は山崎だろうが」
「それでも今は、俺もコイツもか弱いお嬢さんでさぁ」
「勝手に女になっといて、その言い草か」
「やっぱりアンタの体流れてんのは、ヘドロの類いらしーな」
ハン、と吐き捨てるような沖田の言葉に、土方の眉がピクリと動く。
「総悟、てめぇも痛ぇ目みねぇと気がすまねぇようだな」
「俺ぁ、山崎みてぇに簡単にやられませんぜイ」
一度は戻した刀を沖田が手にした瞬間「いい加減にしないか二人とも!!」と近藤が割って入った。
「とりあえず全員、一晩頭を冷やせ……後のことは明日考えればいい……全員頭に血が上ったままじゃ、まともな答えも出ねぇだろう」
土方の肩口を両手で押さえ、なっ、と言い聞かせるような口調で近藤は言う。
「ほらよ、下手に騒ぐと、他の連中にバレちまうだろ?」
「分かった。ここは近藤さんの顔を立てて、退いてやるよ。ちっと俺の部屋で話そうや」
近藤の手を払いのけて立ち上がった土方は障子を蹴り開けると、振り向きもせずに部屋を出て行き、近藤も慌てたように後を追う。
「……山崎、怪我は?」
数拍の沈黙の後、二人の足音が聞こえなくなるのを待ったかのように、沖田が尋ねた。山崎は手を伸ばして背中に触れてみるが、どこか切れているということもなさそうだ。
「打ったところはまだ痛いけど、切れてはない……みたいです」
「ったく……ちったぁ手加減しろってんだ……アノヤロー」
「仕方ないですよ……副長ですから。済みません、庇って頂いて」
「なぁに。あんぐれぇハッキリ言わねぇと、あのトーヘンボクは分かっちゃくんねぇよ」
ニッと笑って、沖田は開いたままだった障子を閉じる。
「折角だから、今夜はここに泊まっていきなせぇ……つか、泊まれ? 色々聞きてぇこともあるしよ」
副長室に戻るなり、土方は押入れの中から行李を引っ張り出した。蓋を開けると書類が詰まっており、それを掴み出して畳の上に広げる。
「トシ、これは……?」
「前に、山崎があのクスリを飲んじまったときの報告書と、その時の血液と粘膜の遺伝子分析結果、ジョルジュとあの学者先生およびその背後関係……まぁ、そんなもんだ」
「は……はぁ」
「急ぎの仕事じゃねぇから、ヒマを見つけてまとめておこうと思って、資料室に持っていかねぇで手元に置いてたんだが……なかなかヒマになんかならねぇもんだな。篠原がこういうの纏めるの、得意だったもんだが」
唖然としている近藤の目の前で、バサバサと書類を引っ掻き回す。
「やっぱり無ぇな。山崎のバカヤロウ、あれを作ってる組織について報告、一切上げてやがらねぇ」
「えっと……座っていいか?」
「ああ、済まねぇ、そこいらにある座布団、適当に使ってくれ」
拾い上げたものの中身をパラッと見てから、再びドサドサと行李に戻していき、途中で手を止める。
「ああ、これだな……近藤さん、これ」
土方が差し出したファイルを、近藤は訳も分からぬまま受け取る。
「んだ? これ、エックス線写真?」
「山崎ンじゃねーがな。別の被験者の症例だ。見た目の穴だけじゃなくて、ちゃんと内臓も……ほれ、子袋があるだろ。でも、遺伝子レベルまでは無理らしくて、変化が著しい部位は性転換しているが、心臓や肺などの生命維持に関わる部分や、脳なんかは、基本的にそのままらしい。だから、思考パターンや意識は、体が再構築されても継続できるわけだが」
「要するに、なんだ?」
「男の部分と女の部分が混在してるんだよ、今のアイツらのカラダは。そりゃあ、多少は改良されてるだろうさ……今回のんは骨格まで影響されたみてぇだな。だが、少なくとも、人格や記憶が継承されてるところを見ると、頭ン中身が男のままなことは確かだ」
「はぁ」
「ちなみに変化の際にひでぇ熱が出るのは、細胞が一度分解して再構築されるのに、異常なエネルギーを発するから、らしいんだが……とりあえず、今の状態は、医学的に不自然な状態だ……ってことだけ分かってくれりゃいい。だからこそ非合法のままなんだ。安全な薬だったら、とっくに合法化されてるだろ」
「まぁ、それもそうだな」
確かにそんなに危険な薬を、安易な気持ちで飲んだのだとすれば、土方があそこまで怒った気持ちも理解できる。
「でも、そのリスクを十分理解して、死ぬかも知れねぇって覚悟の上で飲んだんだったら、その心意気は汲んでやってもいいんじゃねぇか?」
「なにが覚悟だ。あんなもん、ただの酔狂だ……前のんは一晩ぐれぇで元に戻ったが、今回のはそれよかキツいみてぇだから、いつ元に戻るか分かったもんじゃねぇな。まったく、何考えてるんだか」
要するに、この辺りの認識の差らしい。
「あと、通常の人間と異なるのが、フェロモンっていって、男を誘う匂いみてぇのを放つようになるらしい。つまり、正気を失わせる色香みてぇなモンだな」
「は……はぁ、匂いね」
「俺も前には、それと知らねェで引っかかったから、人に偉そうに言えた義理じゃねぇんだが、前回、局内が異様に盛り上がったのも……野郎所帯だからというもの理由としてあるが、これも要因のひとつだったらしいな……一応、知識としてそこんとこを覚えておいてくれ。それを頭に入れた上でどうするかは、アンタの判断に任せる」
土方はポンと、手の甲でレポート用紙を叩いた。
「匂い……匂い、なんだな」
「ああ、体臭みてぇな感じだな。なんとも言えねぇ甘ったる匂いだったな」
そこまで言うと、土方はバサッと手にしていた紙束も行李に放り込み、胡座をかくと真正面から近藤を見据えた。
「アンタ、本気であいつらの酔狂に付き合う気か?」
「さぁ……分からねぇよ。どうしていいもんだか。そろそろ結婚してぇとは思ってたけど、まさか総悟が嫁になるだなんて、誰が想像するよ」
「いっとくが、俺ァ、付き合うつもりはこれっぽっちもねぇぞ。バカバカしい」
「おめぇみてぇに、そう言い切れたら簡単だがなぁ」
近藤は深々とため息を吐いた。
落ち着いて考えてみると、女の身体で大部屋で寝起きするなんて出来るわけもなく……今夜一晩だけにしろ、沖田の申し出は山崎にはとてもありがたかった。
だが時間が時間だけに、大部屋は既に『見苦しい鯉のぼりの群』と化しているだけに、自分の着替えも取りに行くことができず、それも沖田のものを借りることになった。
「何だか不思議な気分です」
普段自分が着ているものとは比べ物にならないほど肌触りの良い素材の寝間着の感触が心地よく、さらさらと撫でていた山崎だったが、不意に呟く。
「他人の寝巻を借りるのも、同じ布団で眠らせてもらうってのも」
「なんでぇ、土方さんとはおんなじ布団で寝かせてもらえないのけぇ…」
枕は一つしかなかったので、山崎の分は座布団にタオルを巻いて代用することにして、二つ並べて置く。
「いや、それはたまに寝てますけどね。沖田さんと同衾するなんて思ってませんでした」
さらりと聞き捨てならないことを口にしているような気もするが、それはこの際、不問にする。
「俺が可愛いからって、襲っちゃイケマセンぜぇ」
「大丈夫です、素人さんには手ェ出しませんから」
「素人ってナニ、お前何のオシゴトしてんですか」
お互い顔を見合わせて、けたけたと笑う。
「何はともあれ、お互い念願叶って第一歩を踏み出したわけだけたけどよ……おんなじ量飲んで、こんだけ効き目が違うってのも凄ぇな」
ふたり偶然にもほぼ同じような身長体重なだけに、最初の時点でも効果の違いは明らかだったが、こうして同じような服を身に付けてみると、さらにその相違点がよく分かる。沖田は改めて、自分と山崎を見比べていた。
「……誰にも話した事なかったんですけどね。俺、クスリが効き難い体質なんです。監察として色々な情報を握っている俺たちは、万一敵の手に落ちた時、拷問されようが自白剤打たれようが、機密は守らないと、じゃないですか。副長からは『そうなったら、自白剤打たれる前に舌でも咬んで自決しろ』って言われてるんです。でも耐え切ってしまえば……生きて帰れるかもしれない。絶対に生きて帰りたいから薬物がきかないようにしてしまおうと思って。そうしたら……必要なクスリまで効きが悪くなるというオチが付きました」
その必要なクスリというのが、今回のコレも含まれているのはいうまでもない。
「おめぇがそこまで健気な努力してるってのに、土方さんはアレだろ? なんだか、わざわざ殴られに帰ぇってくるみてぇじゃねぇか」
潜入調査から何事もなかったかのように戻ってきたはずなのに、その翌日は傷だらけで食堂にいた……なんて姿を沖田が見かけたのは一度や二度でない。
何しろ土方は、口より先に手足が出るのだ。かくいう自分も口論で負けかけた土方に殴られて、売られた喧嘩を買ったのは一度や二度でない。
「カタチはどうあれ、目に止めていただけるだけで嬉しいんですよ……ふたりでいる時だけなんですが、本当はすっげー優しいんですよ。副長はシャイなだけで……」
「……安い飴と鞭で扱き使われてるんだな。俺だったら、あんなDV上司、願い下げですぜイ?」
それでもそう前向きな考え方に持ってこれる辺り、自分には真似できないなと、沖田は苦笑する。
「んー。確かに飴は5%ぐらいしかないかもしれませんけどね。 でも、それで満足してられたはずなんですけど……人間って欲張りですよね。ちょっと与えられると、もっと欲しくてたまらなくなる。それでこんな暴挙に出る部下なんて……土方さんが怒るのも無理ない話ですよね」
不意に先程の土方を思い出してか、山崎の表情が曇る。
「……とりあえず一晩じっくり考えろって近藤さんも言ってたじゃねぇか……明日になりゃ状況も変わってるって」
ぽむぽむと子供をあやすようにその肩を軽く叩く沖田だったが、不意に何かを思い出したのか「なぁ…」と呟く。
「心配事を増やすようで申し訳ねぇけどよ…お前も分かってんだろうけど、土方のヤローの中には、未だにねーちゃんが居座ってる。おめぇにはとんでもなくデッカイ障害になっちまってるのは確実だけど……越えてけるか?」
「越えない限り、俺の望みは果たされないんですから。沖田さん…すみません」
土方の中でのミツバの存在がどれほど大きなものであるのかは分かっていた。ただ傍に置いてもらっていただけでもそれを感じていたのに、添い遂げたいと望むからには今まで以上の壁となって立ちはだかる。それをどうにかしないと、自分の望みは叶わない……だがしかし、それが知人の姉であるというのは、何となく気が咎めるところでもある。
「なんで謝るんでぇ? ねーちゃんは『振り向かず前向いてけ』って、言い残したんだから、土方さんには……過去の中でしか生きてねぇねーちゃんじゃなく、今、この瞬間に、すぐ隣で、てめぇのために体張って生きてる奴を見てもらわねぇと。そーいううことは気にしねぇで、ガツンとやっちまいなせぇ」
「……そうですね。頑張ります」
「だったらあとは……明日からに備えて、体力回復しやすぜぃ」
そう宣言すると、ころんと沖田は布団の上に身体を投げ出し、山崎も灯りを消してその隣に身を横たえた。
だが今日一日のことを振り返ると、簡単には寝付くこともできず、闇色の天井を見つめながら今までのこと、そしてこれからのことを考える。前に自分が変化してしまった時の局内の状況を考えると、沖田までもということで確実に騒ぎは大きくなるのは目に見えている。それだけでなく、本当にお互いの願いが叶ったら……近しい人になんと報告をしたらいいのだろうか? ただ肉体という容れ物が変化しただけで、中の魂は全く変わっていないのに。
「……そーいえばよ」
不意に隣から声をかけられハッとすると、沖田も寝付けずにいたのか、じっとこっちを見つめていた。
「土方さんとは、ホントにヤッたんけぇ?」
その不意の問いに思わず「はぁ?」と間の抜けた声を上げてしまうと「だって重要なことじゃねぇか、お互い何のためにこの体になったと思ってんでぇ?」と真剣な表情で聞き返してきた。
「まぁ、添い遂げる以上は、もれなく付いて来ますねぇ」
「添い遂げなくったって、ヤれんだろうが。つか、ぶっちゃけ、おめぇらヤッてんだろ? どうなんでイ?」
今更否定するのもナンだし、沖田としても他の人間に聞くわけにはいかないだろうから、ここは素直に答えてやるべきなのだろう。
「……ご想像の通りですよ」
「やっぱりか……で、感想は」
「まぁ、正直に言っちゃいますとね、俺のクスリの効きが悪くって変化し切れなかったのって、外見だけじゃないみたいで、下の方も発育が悪いみたいで……土方さんが苦労してたんです」
「苦労してたって、何を?」
「ナニを突っ込むまで。それまで何も挿れたことのないところにアレが入るんですよ。土方さん曰く『ガキ相手にしてるようだった』ってくらいキツかったみたいで、俺の方も初めてん時は、気持ちイイって感じるより痛みの方が強かったし、それに出血も半端なかったんですが、それでも何だか嬉しかったですよ……一生消えない刻印をしてもらえたみたいで」
「最後はノロケですかィ。それにしても、あいつぁ幼女に萌えるのけぇ」
耳から入ってくる話と同時に頭の中でシュミレートしていた沖田だったが、最後のその嬉しそうな呟きに苦笑するのと同時に、長年近くにいた人間の意外な趣向を知り、愕然とする。
「幼女萌えというか、巨乳が好きじゃないようです」
「良かったなぁ、おめぇ……これで土方さんが巨乳マニアだったら、報われネェぞ。まぁ、そういう意味では、俺も近藤さん好みのロリ顔巨乳になれて良かったわけだがな……あ、でも近藤さん最近、つるぺたも守備範囲だって言ってたな」
「…・・・最近って何? 局長また新しいエロゲーにでもハマったんですかね。そういえば、この体に慣れるまで、ちょっとモヤモヤした気分になりますけど、頑張ってくださいね」
「なんでぇ、そのモヤモヤした気分って」
「素女丹の効果としてそういうものがあるんですよ。異性を誘引させるフェロモンを出すのと同時に、自分の方もそれを受け入れ易くなるために催すというか……まぁ催淫作用が」
「サイイン?……ぶっちゃけ『サカる』ってことですかィ?」
一瞬、語句の意味が分からず、沖田が当てずっぽうに言い換えたその言葉に、山崎はこくりと頷く。
「今だからこそ、冷静に言えますけどね。与えられるまではそれを知らないだけに、ちょっとの我慢だけですみますが、一度知ってしまうと、体が疼いて……」
「んで、下の口で土方さんを咥えてしゃぶってたってかイ」
「沖田さん、それ露骨過ぎますからっ! それと、後天的要素による傷は変化の際に消えるようです。一番分かりやすいところで、これですかね?」
ほら、と沖田の前にかざした山崎の手の甲からは、セクハラの代償に(?)土方につけられた筈のいくつもの丸い火傷の痕が、きれいに消えていた。
「つーことは……俺の体からも消えてるってことですかい? 近藤さんに傷一つねぇ身体、愛でてもらえるってことだよなぁ?」
今の状況では暗くて確認できないが、明日になったらもう一度自分の体を検分してみようと、沖田は心の中で決めておく。
「そうなりますねぇ。そもそもこの薬物が何に使われるのかということを考えれば、必然的にそういう効果も付随するんですよ」
「まぁなぁ、俺だって欲しいモンに傷がついてたら、買い叩くかんなぁ」
「・・・…最初の時点で、俺は買い叩かれる対象ですけどね」
「でもよ、つるぺったんがいいってぇ奴もいねぇとは限らねぇぜ? 土方さんとか土方のバカとか土方コノヤローとか」
なんらかの接続詞がついているだけで、その固有銘柄は全部一緒だろうと苦笑しながら言い返すと「おめぇの希望銘柄と違ってますかぃ?」としれっと言い返された。
その後も夜っぴて様々な話が続き、言葉が途切れたなと思った瞬間には、ふたり仲良く眠りに引き込まれていた。
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