残 り 香/壱
頓所の自室。
なぜか行儀よく正座なんてしたりして、沖田はじっと目の前の物を見つめていた。
懐紙の上には黄色い錠剤。
一時的に性転換を起こさせる、天人製の違法ドラッグ・素女丹。
捜査活動という懸命の努力の末に、再びこれを手に入れた。
前回までの計画は、土方にこれを飲ませて、あんなことこんなことを……だったが、今回は方針を変えてみようと思う。
『お前が飲んで、トシに迫ってりゃよかったんじゃねぇの?』
近藤のその言葉は、まさに目から鱗だった。
前回は『飲ませよう』としたことで思わぬ邪魔が入ったが、今回は飲むのは自分だ。
「さぁてと……待っててくだせぇ、土方さん」
くすくすと笑いながら、口に放り込んだ錠剤をペットボトルの水で嚥下する。
「……まじぃ」
ペットボトルの蓋を閉めながら、今で飲んだ薬の何に似ているとも付かない独特の味に呟いたその直後。突然襲ってきた激痛に、沖田は躰を二つに折って畳の上に倒れこんだ。
息ができない。空きっ腹に強い酒を流し込んだ時のような灼ける痛みに苦悶の声を上げそうになるが、今の状態を誰にも見られたくない。
「ぐぅぅぅぅっ…!!!」
声を抑えた分、ざりざり…と畳に爪の跡が残っていく。
じっとりと濡れたものが張り付く感覚に沖田は目を覚ました。
どうやら意識を失っていたらしく、汗でびっしょりになった服が冷えて躰に張り付いている感触が、気持ち悪い。
「…う…」
ゆっくりと身を起こして時計を見ると、どうやら一刻近く意識を手放していたらしい。
「聞いてねぇぜ…こんなにぶっ倒れてるなんて…」
山崎の変化の一部始終を見ていた土方の話では、半刻ほどで目を覚ましたというが。
「……すげぇ汗……」
何気なく胸元を開いてみて、目に入ってきた光景に笑みが浮かぶのと同時に、少々落胆する。
確かに薬は、自分の体に変化をもたらした。
男の体では決してあるはずのない、椀を伏せたような……いや、椀というには大きすぎるその柔らかな膨らみ。
自分の姉は……小柄で細身だっただけに、同じようになると予測していたのだが、まずは全てを確かめるべきだと、部屋の片隅の姿見の前で汗に濡れた服を脱ぎ落とし、改めて自分の体を検分する。
そこにいるのは、世の男の理想を具現化したような、大人になる寸前の、僅かに幼さを残した少女の姿。
無駄な肉のないすらりと延びた手足。
形よく上を向いた胸乳。
細く引き締まった腰。
「……尻はあいつより小さいな」
前だけでなく、背中も写してみて、比較対象となる相手より勝ったであろう場所をまたひとつ確かめる。
元々男としては小柄だったために、一見しただけだと長身の娘にしか見えない。その点においてはほぼ同じ身長・体重である比較対象も同じだが、なによりも自分は「出るべきところが出て、括れるところがちゃんと括れている」のだ。
本来ならば申し分ない、自分の理想通りの素晴らしい体だが……。
……この姿を見せたかった相手の理想とは、激しく違う。
胸が。
しばし、じっと大きな鏡に映った自分の姿を見つめ、おもむろにその胸を鷲掴みにしてみる。
むにっ……と、細い指先が柔らかな肉に沈み込む。それこそ自分自身が好みと言って憚らなかったものなのに。
「……自分で掴んでもつまんねぇな」
はぁ、と深いため息をついたその時、廊下から声がかけられた。
「沖田隊長、食事要らないんですか?」
そういえば、もうそんな時間である。
「今行きまさぁ」
返事を返したものの……この姿で何を着たものか。
潜入捜査などで女装をする機会がある山崎と違って、フツーの男子である沖田が女物の服など持っている由もないのだ。寺門通が一日局長をした際、特別に女性仕様に仕立てた隊服もあったはずだが、あれは記念にプレゼントした筈だし……そもそもあのチンクシャ女のサイズでは、バストが合わないに違いない(その事実も、沖田のプライドを非常に満足させた)。
そういえば、土方を女に変えたら着せようと準備した黒ビキニがあったっけ。ダメモトと居直って下着代わりに履いてみる。パンティは脇を紐で縛る、いわゆる「紐パン」だったのでサイズに問題はないが、ブラジャーの部分は、カップの上から余った分がぽろんとはみ出そうだ。
「え、俺ってやつぁ、どんだけナイスバディ? まぁ、どうせすぐ脱ぐから、これでもいっか」
その上から、自分の隊服を着込もうとする。スラックスはすんなりと入った。ベルトの穴位置が2つほど細く、ヒップの部分もむしろスカスカな程で、スラックスの尻がパツンパツンになっていた山崎とは、えらい違いだ。
「さすが俺」
己を褒め称えながら、ブラウスを着る。こちらはボタンを留めるのに一苦労のうえに、ベストはそもそも入りようもない。
「さすが俺」
二度目は自嘲だ。上着は羽織るだけなので、両腕で前身頃を掻きあわせながら、もう一度姿身に己を映して、クルンとその前で回ってみた。
「ち。美少女は何着ても、サマになるからいけねぇや」
冗談が本気か分からない独り言を吐きながら、ふすまを開けた。さすがに一瞬、この身体で野郎共の中に飛び込むことがためらわれる。
山崎が、土方の上着の裾を掴んで、金魚のウンコみたいにくっついて歩いていたのを思い出した。今なら、あの時の山崎の気持ちも、理解できなくはない。気持ちが分かったところで、ムカつくことに変わりはないけれども。
深呼吸をひとつして、沖田は足を踏み出した。
「ひィーじかァーたーさぁん」
野郎どもがガサガサと丼で飯を掻き込んでいる食堂に、匂い立つばかりに華やかな声が飛び込んだ。思わず振り向いた連中が言葉を失い、どうしたのかと釣られた連中も同様に絶句する。原爆雲が都市を飲み込んでいくかのように、食堂に沈黙が広がっていった。
その爆心地で、沖田が婉然と微笑んでいる。
「あれ、土方さんはいねぇんで?」
己に投げかけられる雄の視線を自覚しているのか、沖田はわざと胸の谷間を強調するように腕組みをしていた。
「トシもそろそろ来るたぁ思うが……どうしたんだ、総悟、おめぇ、その身体」
「やだなぁ、近藤さんがアドバイスしてくれたんじゃねぇですかイ。てめぇで女になってみろって」
「そうか? ああ、そういえば、そう言ったっけな。それにしても、その、見事なおっ……いや、ち……その……バ、バストだな」
山崎に向かって、貧乳だのツルペタだの幼女体型だのと気軽に罵っていたのが嘘のように、近藤は奥歯にものが挟まったような喋り方になっている。
「ここの造形だけは、遺伝子が負けやした」
「まぁ、でも……ミツバ殿もお美しかったが、総悟もべっぴんじゃねぇか。顔立ちもどことなく似てるし。ミツバ殿がちっとばかり血色よくなって、健康そうに肥えたら、瓜二つだ」
「そうですかイ? で、コイツは、土方さんに気に入ってもらえると思いやす?」
唯一にして最大の懸念材料であるバストを、さらに強調するように両手で寄せて持ち上げながら、近藤に半歩だけ迫ってみる。はちきれそうな白ブラウスから、黒いビキニが透けている。その圧倒的な肉感を見せ付けられて、近藤の鼻腔から、プッと真紅の飛沫が迸った。
「そっ……そらぁ、いくら貧乳スキーでも、その、おっぱいが嫌いな男なんかいねぇんだし、気に入るも何も……すっげぇレベル高いなオイ、そのボインは既に殺人兵器だぞ」
「兵器? 確かに、その調子で鼻血を吹いてたら、出血死しそうでやんすね。そこの雑巾でも詰めときやしょうか? ……そういやぁ、あのバカザキも見かけねぇな。格の違いを見せてやろうと思ったんだが」
沖田がその悩殺ポーズで、食堂内をぐるりと見回すと「おおっ」「これはひどい」「フェロモンの無駄遣い」「もっと評価されるべき」「勃ったら負け」などという声が上がり、今度は蜂の巣を突いたような喧騒が広がっていった。
「何の騒ぎだ、こりゃ」
その騒ぎに、ボソッと低い声が割り込んだ。一瞬にして、空気がピキッと凍りつく。
「局中法度に、食堂で騒ぐべからず……とでも定めておかねぇと、飯も黙って食えねぇのか、てめーらは」
「あ、土方さん」
「んだぁ、またてめぇが騒ぎの張本人か」
うんざりと、ため息混じりにそう呟いただけで、土方はあっさりと視線を沖田から外し、晩飯のカツ丼を前にしてマヨネーズボトルを取り出した。
「ちょっ……このナイスバディをスルーですかイ。照れ隠しにも程がありやすよ」
「うるっせぇなぁ。今、土方スペシャルを作成中だ」
そんな犬の餌と俺と、どっちが大切ですかイと尋ねれば、土方スペシャルと即答されることは分かっていたので、あえて沖田はそれにはツッコまずに土方の正面に回り込む。喉元と胸元のボタンを外して両手で衿をワッと押し広げると、胸乳が今にもポロンとこぼれ落ちそうになった。
「ねぇ、土方さん、これ……一言ぐらいくれてもよござんせん?」
「こだますいか」
「は?」
「いや、一言くれっていうからよ」
意味が分からず沖田がフリーズしている隙に、土方はガツガツと丼を掻き込んだ。ものの三分もしないで丼を空けると、コップの水を一気飲みして席を立つ。
「ところで総悟、こないだの捕り物、一番隊からの報告書があがってねぇぞ」
それを聞いて、総悟が我に返った。
「ちょっ……土方さん、いくらアンタの好みが貧乳だからって、そいつぁ殺生ですぜイ。せっかく、土方さんのためにオンナになってみたのに」
「知るか。そんなん頼んだ覚えねぇ」
「ザキがオンナになった時には、いやに甘かったじゃねぇですかイ」
「あらぁ、俺のせいでああなったから、責任とっただけだ。てめぇのは、てめぇが勝手に変化したんじゃねぇか」
「そんな……っ」
あまりに冷たい土方の反応に見かねて、近藤が「トシ、今のはおめぇが悪いぞ」と割り込んだ。
「いいか、トシ。ロリ顔に巨乳、あれが萌えというものだぞ!」
「近藤さん、アンタ、つるぺた幼女体型に目覚めたんじゃなかったっけ」
「いや、つるぺたもスバラシイが、巨乳もスバラシイ。むしろ、女性のおっぱいはすべからくスバラシイ。これは、エロを極めたという伝説の勇者が手にした萌え法典の第一条だぞ! それをおめぇ、なんてぇ酷い扱いだ」
「知るか。いくら有り難がったところで、所詮は脂肪の塊じゃねぇか」
「脂肪いうな! おっぱいには、男の夢とロマンが詰まってるんだ!」
「ただの脂肪さ」
そう言うや、トレイを持っているのとは逆の手を伸ばして、おもむろに総悟の胸を握り込んだ。
土方の剣ダコのある長い指が、羽二重餅のように柔らかい肉に沈み込む。ぬめるがごとくきめ細かい肌が指に吸い付いてきて、今にも脂が掌の熱でとろりと蕩け出しそうだ。
「総悟、良かったなぁ。おめぇ、指が沈むぐれぇの巨乳が好きなんだろ?」
「どうでイ、土方さん。巨乳も悪くないでやんしょう?」
沖田はほんのりと頬を赤らめながらも誇らしげに土方を見上げ、固唾を飲んでやり取りを見守っていた周囲は「オオッ」とどよめいたが、土方は眉筋ひとつ動かさなかった。
「……ぶよぶよしてんだよ、気持ちワルイ。汗でベタベタしてるし」
そうつぶやくと、土方は手を抜き、傍らの台拭きで指を拭う。
「ひどっ、アンタそれ、あんまりの対応じゃねぇ?」
「やっぱ俺ァ、西瓜サイズよりも掌に乗るぐれぇのが好みだな」
「乳のサイズがアンタ好みだったら、ちったぁ、優しくしてくれたんですかイ? だったら、こんな乳、要らねぇよ」
沖田が脇差しを鞘から抜いた。
背を向けた土方を見据えながら、逆手に構えて己の胸元に切っ先を当てる。だが、それを引く前に、近藤が沖田の背後から手首を握って押さえつけた。
「まぁ、待て、早まるな、総悟。そんな国宝級を傷つけるものじゃない」
「国宝級でも世界遺産でも、土方さんに喜んでもらえなくちゃ、意味がねぇんだよ」
「落ち着け。世界は広えんだ。おめぇの気持ちを知らないわけじゃないが、トシひとりに固執することもねぇんじゃねえか? 例えば、俺とかよ?」
近藤に抱き取られ、背中をポンポンと叩いてあやされているうちに、沖田も多少、落ち着いたらしく「近藤さんねぇ、悪かぁねぇな」などと口元を綻ばせながら、おとなしく脇差しを鞘に収めた。
「きょっ、局長ッ、いくら局長でも抜け駆けは、ズルいんじゃないですか!?」
誰かがそう叫んだのをきっかけに、ワッと野郎どもが沖田を取り囲んだ。
「沖田クン、その、ボクなんかどうです?」
「いや、その、今日の沖田隊長は、まさに理想中の理想というか、自分のために舞い降りてきた天使というかっ!」
「沖田さんに踏まれてみたいっ!」
「お願いします、女王様と呼ばせてください! その麗しい乳でこの奴隷めをお嬲りくださいっ!」
沖田は突然の求愛の嵐に、目を瞬いた。
「土方さぁーん……どうしやす? 俺ァ、なんか大モテみてぇですけど? ねぇ、ちょっとは妬けません?」
食器を返却口に戻した土方が、興味なさそうに視線を流しながら「勝手にしろ」と吐き棄てた。
「なんでぇ、勝手にしろだなんて……土方さんのオタンコナス! トーヘンボク! 冷血漢! いいよ、分かったよ、だったら俺ァ、好きにさせて頂きまさぁ!」
食後、一足お先に土方が、局長室で報告書を取りまとめていると、近藤が頬にひっかき傷を作って戻ってきた。
「やっぱりな」
「何がやっぱりな、だよ」
「その傷、あのジャジャ馬の尻でも撫でたんだろう、近藤さん」
苦笑しながら、土方は文机の上でトントンと書類の束を揃える。後はホントに、一番隊からの報告書待ち状態なんだが……この調子では当分、上がってこないだろうから、とりあえずこれで出すしかないな。
「トシは乳揉んだくせに」
「アレは気難しいんだよ」
聞けば、あの後の沖田は女王様気取りで、野郎どもを奴隷のごとく従え、食事も「あーん」で食べさせてもらうなどして、いたくご満悦だったらしい。
「それに、総悟が調べてきたところによると、あのクスリは身体を変化させるだけでなく、妙なフェロモンを放つらしいじゃねぇか。惑わされてんじゃねぇよ」
自分も、山崎の時はそれにアテられたのを棚に上げ、土方は苦笑交じりにそんな分別くさいことを言う。いや、自分が経験しているからこそ、なのか。
「いや、フェロモン以前に、あの造形が犯罪だよ。あの胸といい、細っこい腰といい、キュンと締まった尻といい……それで、顔立ちまでロリっぽい美少女なんだぜ? もう、おっさんクラクラしちゃうじゃねぇかよ」
「アンタ、お妙さん一筋だったんじゃねぇのか?」
「それを言ってくれるな、トシ……確かに俺ァ、お妙さんを愛している。だが、あの圧倒的な萌え要素が俺の魂を揺さぶるんだ。いや、別に、お妙さんのバストが総悟に負けているからとか、そんな理由じゃない。お妙さんが俺をケツ毛ごと愛してくれているように、俺もお妙さんをまな板ごと愛している。しかし、そんな俺のささやかな誓いを打ち砕くかのように、あのぷるんぷるんのぽよんぽよんのむちむちぱいーんフラグが立ったんだよぉおお!」
「近藤さん、落ち着け。あの女はアンタをケツ毛ごとどころか、これっぽっちも愛しちゃいないうえに、女になろうが人外になろうが、総悟は総悟だ。ドS星からやってきたドSの王子様だ」
「いや、あれは総悟であって総悟でありながら、総悟でない。いわば総悟以上の存在だ」
「器がどうなろうが、所詮、中身が総悟じゃねぇか。セクハラしたときに、斬りつけられなくて良かったな」
女になった時は筋力が若干落ちるから、重たい長刀を片手で振り回すのは男同様にはいくまい。だが、室内なら小回りがきく脇差や小太刀を使うだろうから、ほとんどハンデはなくなる。
「いや、永倉君が斬り付けられてた。頭のてっぺんがごっそりと」
「またか。せっかく生えてきたのにな」
だから、ヤットウがからっきしの山崎と違って、あいつは勝手にさせておいても大丈夫だと思ったんだ。女の身体になったからと、見くびるわけにはいかない。柳生の娘の例もある……燕のように宙を舞う三段突きの鮮やかな剣筋を思い浮かべて、土方は永倉に心から同情した。
「おまえじゃなきゃ、イヤなんだとよ」
「やれやれ。困ったヤツだ」
困ったヤツはおめぇさんだろ……と、近藤はツッコみたかったが、その前に土方がボソッと「覚えてるか? あいつに女の味を教えてやろうと思って、ミツバの目ぇ盗んで、遊郭に連れて行ってやったら、やっぱり今回みたいな大騒ぎになったっけな」と呟いた。
ホントは、こーいうことは女とするんだぜ? だから一度、女とヤってみろ、ぜってぇソッチの方がイイから……そう言い聞かせながら、引きずっていったものだ。
カワイイ男の子の筆下ろしということで、妓女共が我こそはとキャーキャー大騒ぎをしたが、いざ床入りという頃になって「やっぱり、土方さんの方がいい」と言い出してごねた挙句に、遊郭の用心棒が出てきて斬り合いにまで発展し、結局、総悟の姉のミツバにバレて「総ちゃんをそんなイカガワシイところに連れて行くだなんて! 十四郎さんのえっち!」と、大目玉を食らって……懐かしくも忌まわしい、若さゆえの過ちというヤツだ。
「その……でも、今回ぐれぇは、情けをかけてやったらどうだ?」
「そんなことしてみろ。本気でミツバに顔向けできねぇ」
もうとっくに顔向けできない状態だと思うんだけど……とは思うが、己も沖田の尻を撫で回しているので、あまり強く言えない近藤であった。
「それに、そんなことをしてるヒマもねーんだ。次はこいつなんだがな……近藤さん、アンタこれ放りっ放しにしてただろ」
土方はサラッと言うと、分厚いファイルをドンッと文机の上に積んだ。
「げっ……忘れてたッ」
「手伝ってやるよ。なぁに、提出は明日の昼だから、今からやれば、じゅうぶん間に合う」
土方はそう言うと、上着のポケットから煙草入れを取り出して、1本くわえた。どうやらこの仕事熱心な男は、本気でここで夜なべして仕事をするつもりらしい。
ローテーション的に、今日はお妙さんの隠し撮り写真でもオカズにオナニーして寝るつもりだったのにな。それもこれも、沖田の色香に惑わされた神罰か。
ああ、そうだろうさ、これが愛の試練というやつさ。お妙さん、やはり勲はアナタ一筋であります……と、近藤はうらめしげに書類の束を見やりながら、深くため息をついた。
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